元の記事Bestie
深掘り
裏側を読む

日銀の「物価2%」は、なぜ目標なのか

日銀が「物価2%に到達した」と初めて判断する公算だと報じられました。2%という目標は2013年に決まり、それから10年以上、日銀は大規模な金融緩和を続けてきました。なぜ0%ではなく2%なのか、達成すると何が変わるのかを、日銀自身の説明でたどります。

先に結論

  1. 2%は2013年1月に日銀が定めた「物価安定の目標」。消費者物価の前年比で測る。それまでは「当面は1%を目途」だった
  2. 0%ではなく2%なのは、物価指数が高めに出るくせがあること、景気が悪いときに金利を下げる余地(のりしろ)を残すこと、主要国の中央銀行も2%を目指していることの3つが理由
  3. 2%に届いたと判断すれば、日銀の仕事は「物価を押し上げる」から「2%で落ち着かせる」へ移る。政策金利はすでに1.25%まで上がっており、引き上げを続ける方針
1

2%は、2013年1月に「目標」になった

日銀は2013年1月22日の金融政策決定会合で、物価安定の目標を「消費者物価の前年比上昇率で2%」と定め、できるだけ早く実現することを目指すとしました。同じ日に政府とともに共同声明も出しています。それまでの日銀は、前年2月に示した「中長期的な物価安定の目途」として、「2%以下のプラスの領域、当面は1%を目途」としていました。「目途」から「目標」へ、1%から2%へと、ここで大きく踏み込んだことになります。

2

「2年で2%」から始まった、10年を超える金融緩和

2013年4月4日、黒田総裁のもとで日銀は「量的・質的金融緩和」を始めました。2%を2年程度で実現するため、世の中に出回るお金のもとになるマネタリーベースと、日銀が持つ長期国債・ETFの量を2年で2倍にするという、それまでにない規模の緩和です。それでも目標にはなかなか届かず、2016年1月には銀行が日銀に預けるお金の一部に▲0.1%の金利をつける「マイナス金利」を導入(賛成5・反対4の僅差でした)。同年9月には長期金利まで操作する「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」に切り替え、物価上昇率が安定して2%を超えるまでお金の量を増やし続けると約束しました。

3

なぜ0%ではなく2%なのか: 3つの理由

黒田総裁は2014年3月の講演で、理由を3つ挙げています。1つめは物価指数のくせです。消費者物価指数は、実際より上昇率が高めに出る傾向(上方バイアス)が知られており、指数の上でぴったり0%だと、実態はわずかなデフレの可能性があります。実際、1998〜2012年度の消費者物価の下落率は平均で年0.3%にすぎませんでしたが、日本はこの間ずっとデフレに苦しみました。2つめは「のりしろ」です。景気に中立的な金利は、おおまかに経済の成長力と物価上昇率の合計で決まります。成長力1%・物価2%なら中立金利は3%で、景気が悪くなれば3%分下げられますが、物価0%なら1%しか下げられません。3つめは、英国・カナダ・ニュージーランドや米国など主要国の中央銀行の多くが2%程度を目指しており、それが国際的な標準になっていることです。

4

2024年3月、「見通せる」までは来ていた

日銀は2024年3月19日、賃金と物価の好循環を確認し、2%の目標が持続的・安定的に実現していくことが「見通せる状況に至った」と判断しました。これでマイナス金利と長短金利操作を終え、政策金利を0〜0.1%程度とする利上げに踏み切っています。その後も2024年7月に0.25%程度、2025年1月に0.5%程度、2025年12月に0.75%程度、2026年6月に1.0%程度、2026年9月に1.25%程度へと、段階的に引き上げてきました。ただしこれは「見通せる」という見込みの段階で、2%に「届いた」とはまだ言っていません。

5

今回は「届いた」と言うかどうか

朝日新聞は、日銀が10月30日、物価上昇率が目標の2%に事実上到達したとの見解を初めて示す公算が大きいと報じました。報道の段階で、決まったものではありません。数字の上でも際どいところにあります。9月18日の会合では、利上げに反対した委員が「足もとの消費者物価(除く生鮮食品)の上昇率が2%を下回る」ことを理由に挙げていました。その後、総務省が10月23日に公表した9月の消費者物価(生鮮食品を除く総合)は前年同月比2.1%の上昇で、2%を超えるのは9か月ぶりです。日銀が見ているのは1か月の数字ではなく、賃金と物価がそろって上がる「基調」です。

6

届いたら何が変わるのか

2013年からの日銀の仕事は、ずっと「物価を2%まで押し上げる」ことでした。届いたと判断すれば、仕事は「2%で落ち着かせる」ことに変わります。日銀は9月の公表文で、経済・物価・金融の情勢に応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくとし、物価が2%を超えて上振れていくリスクに注意する考えを示しています。政策金利が上がると、一般に預金の金利や、変動型の住宅ローンの金利などにも順に波及していきます。報道では、月内の追加利上げは見送る方向とされています。「2%到達」は、緩和の終わりというより、金利のある世界での舵取りの始まりと読むと分かりやすくなります。

元の記事元の記事に戻るこの深掘りのもとになった記事です

出典

新しい号が届いたら、すぐ読みたい

新しい号を公開したときにお知らせします。