フィジーク『初出場3冠』は、どう審査されるのか
THE RAMPAGE の後藤拓磨さんは、ボディコンテスト初出場で3つのクラスを制した。ただしこの3冠は、同じ物差しの優勝を3回重ねたものではない。経験で区切る初心者クラスと、年齢で区切るオープンクラス。審査員はステージの何を見て順位を付けたのか、ジャッジシートの内訳と APF の審査の仕組みから読みます。
先に結論
- 3冠の中身は同質ではない。ファーストタイマーとニューカマーは「経験」で出場者を絞る初心者向けクラス、クラス20は経験を問わない20〜29歳の世代別オープンクラスで、物差しの違う3つの審査を同じ日にすべて通ったことが「初出場3冠」の実態である
- フィジークモデルは筋肉の大きさを競う競技ではなく、サーフパンツ姿で身体の形とバランス、適度な筋量、ポージングや立ち居振る舞いまでを含む「見せ方」の競技。3クラスとも審査員4人のうち3人が1位、残る1人が2位をつけており、評価は審査員の間で割れなかった
- 3つのうちクラス20の優勝だけが、APF の年間王者決定戦グランドチャンピオンシップスへの出場権を伴った。初心者クラスは出場権の対象外(オープンクラスではない)ため、「3冠」の中で全国決戦への切符を持っていたのは1冠だけだった
何が起きたか:3クラスとも「4人中3人が1位」
2026年10月18日、東京都の武蔵村山市民会館で開かれたボディコンテスト「APF ALL OUT CHAMPIONSHIPS 2026」で、16人組ダンス&ボーカルグループ THE RAMPAGE from EXILE TRIBE のパフォーマー、後藤拓磨さん(27)が、コンテスト初出場で3クラスを制した。優勝したのはフィジークモデルの「ファーストタイマー+174.5cm」「ニューカマー+172cm」「クラス20+171cm」。主催団体 APF(Asia Physique Federation)の公式ジャッジシートによれば、後藤さんは3クラスすべてで、4人の審査員のうち3人が1位、残る1人が2位をつけた。つまり僅差の混戦を拾ったのではなく、クラスが変わっても審査員の評価がほぼ一致していた。審査の途中では、1位と2位を争う選手同士の立ち位置を入れ替える「スイッチ」がステージ中央で頻繁に行われ、そのたびに観客の声援が沸いたと FITNESS LOVE は伝えている。
フィジークモデルは何を見る競技か:大きさではなく「適度さ」と見せ方
APF のフィジークモデルは、サーフパンツ(ボードショーツ)を着用し、上半身の身体を披露するカテゴリーである。審査の対象は、引き締まった肉体、適度な筋量、身体全体のバランス、ポージング、そしてパーソナリティー(個々の魅力)とされ、「ビーチで目立つ格好良さ」がコンセプトに置かれる。筋肉の大きさと全身の発達そのものを競うボディビルとは物差しが違い、フィジークでは過度な筋量はむしろ減点の対象になり得る。ボディビルとフィジークの中間に位置するクラシックフィジークには身長に応じた厳しい体重制限と5つの規定ポーズ、フリーポーズがあるが、APF のフィジークモデルの規定ポーズはフロントとバックの2つだけだ。片手を腰に当てて静止するのが基本で、規定外の動き(ムービング)は減点対象になる。衣装も細かく定められ、サーフパンツは既製品のみ、チェックイン時には水着チェックがあり、アクセサリーは結婚指輪か耳ピアスのみ許される。派手な演出で差をつける余地は小さく、静止した2ポーズでの身体の形と佇まいが、そのまま審査の俎上に載る。
3つのクラスは別々の物差し:経験、再出場制限、そして年齢
後藤さんが制した3クラスは、名前が似ていても出場者の絞り方がまったく違う。ファーストタイマーは、APF のフィジーク競技に初めて出場する選手だけが対象で、文字通り「一度きり」のクラスである。ニューカマーも初心者向けだが、出場経験自体は問わない代わりに、2022年以降に同クラスで3位以内に入賞した選手は再出場できないという制限が付く。「過去に上位に入った初心者」を排除しつつ、経験者と初出場が混ざる設計だ。一方、クラス20は20〜29歳を対象とする世代別クラスで、経験は一切問われない。APF の世代別クラスはハイスクール(16〜17歳)、カレッジ(18〜19歳)、クラス20、クラス30、クラス40、Over50(50歳以上)と並び、このほかに体重別クラスもある。なお、後藤さんの身長区分がクラスごとに「+174.5cm」「+172cm」「+171cm」と少しずつ違うのは、身長クラスの境界が出場人数に応じて調整されるためで、同じ選手でもクラスの顔ぶれによって区切りが変わる。
審査の進み方:比較審査「スイッチ」と、一人ひとりの順位付け
審査は、選手をステージに並べて比べる比較審査が中心になる。規定のフロントポーズとバックポーズで並んだ選手たちを、審査員は一人ひとり順位を付けてジャッジシートに記録していく。このとき、上位を争う選手同士の優劣がつけにくければ、審査員の指示で立ち位置を入れ替える「スイッチ」が行われる。横並びの位置が変われば光の当たり方も隣の選手との対比も変わるため、並び順の有利不利を消しながら、同じ2人を何度も見比べ直す仕組みである。今回の大会では、このスイッチがステージ中央で頻繁に行われた。それでも最終的な内訳は、3クラスとも「4人中3人が1位、1人が2位」で揃った。順位は1人の審査員の印象で決まるのではなく、複数の審査員の判定の積み重ねで決まる。見比べ直しを繰り返した末に評価が割れなかったことが、この3冠の数字上の特徴である。
なぜ異例か:初心者クラスの「卒業」を1日で駆け上がり、全国決戦の切符まで
初心者向けクラスは、本来「卒業していく」ための設計になっている。ファーストタイマーは初出場の選手しか出られず、ニューカマーも上位に入賞すれば同じクラスには戻れない。普通の順序は、こうしたクラスで経験を積み、準備が整ってから経験不問の世代別オープンクラスに挑むというものだ。後藤さんの3冠は、その段階を1日のうちに駆け上がり、最後にベテランも初出場も同じ土俵で競うクラス20まで制した点で異例と言える。しかもクラス20の優勝には、もう1つ別の意味があった。APF のグランドチャンピオンシップスは各カテゴリーの日本一を決める決戦で、出場権は通常大会(リージョナルコンテスト)のオープンクラスで TOP5 に入った選手だけに与えられる。ファーストタイマーとニューカマーはオープンクラスに該当しないため、そこで優勝しても出場権は得られない。3冠のうち、全国決戦への切符を伴ったのはクラス20の1冠だけだった。背景には準備の積み重ねもある。FITNESS LOVE の続報によれば、後藤さんは5カ月の減量を、2時間から2時間半踊り続けるライブツアーと両立させ、1日3500kcal から始めて末期は2300kcal を基本に調整したという。なお APF は、日本簡易検査ドーピング協会と連携し、すべての大会でドーピング検査を実施している。審査の公正さは、こうした表舞台の外の仕組みにも支えられている。
出典
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